アメリカでは、無痛分娩が非常に普及しており、6割以上の赤ちゃんが無痛分娩によって生まれてきます。
産婦さんがわざわざリクエストしない限り、当たり前のように無痛分娩のための局所麻酔が行なわれます。
そのため、ほとんどの産婦さんが医学的な無痛分娩を受けるために「病院」で出産をします。
「病院」では、緊急事態が起きた場合にすぐ対応できる設備やスタッフが揃っていること、ハイリスク産婦の分娩に対応できること、などのメリットがあります。
デメリットとしては、出産時の立会いに制約があること、点滴やモニターリングが行なわれるため分娩中の歩行などが制限されること、などがあります。
またアメリカでも病院以外で赤ちゃんが産める場所として「助産院」があります。
「助産院」では家庭的な雰囲気で、家族に囲まれて出産ができること、薬剤に頼らず自然な分娩を行なえることなどのメリットがあります。
しかし、麻酔を使った無痛分娩には対応していません。
そのため耐えられないほどの陣痛があって麻酔を受けたいと感じても対応してもらえないというデメリットがあります。
アメリカでは病院での出産が一般的である中、自然分娩を志す産婦さんのために、後から「助産院」が設立されました。
これに対して日本では助産院での出産が一般的であったので、アメリカとは逆になります。
分娩をする施設を選択することは、産婦さんが最初に行なう大切な決断です。
日本ではまだ、アメリカに比べ無痛分娩が十分に普及していないため、無痛分娩を希望する産婦さんは、対応している病院を探すのに少し苦労が必要になるかもしれません。
無痛分娩の普及しているアメリカの病院でも、最近の傾向として、局所麻酔による鎮痛方法以外にも分娩中の入浴、シャワー浴やバースボールを使ったリラックス法、ドゥーラを活用する方法などを取り入れるようになってきています。
これは陣痛をやわらげる方法の選択肢を増やして欲しいという産婦の要求に応えるためです。
上記にある「ドゥーラ」は、分娩経過中に産婦のさまざまなお世話をする人で、日本ではまだ一般的ではありません。
ドゥーラとは、出産サポート訓練を受け、経験を積んだ分娩付添人です。
中には看護師としての訓練を受けている人もいますが、たいていは医療的な訓練は受けていないため、医療面でのアドバイスや出産の介助は行ないません。
産婦さんの傍から離れることなく、分娩中の介護や精神的なサポートをしてくれます。
ドゥーラと妊婦さんは、出産予定日より前に何回か会う機会を設け、親しくなり、出産に関する相談に乗ったり、バースプランを立てるお手伝いをしてくれることもあります。
そのため、いざ陣痛が始まっても、その時には互いによく知った仲になっているため、産婦さんは安心して出産に臨めるのです。
何となく、自然分娩の際にお世話になるように感じるかもしれませんが、ドゥーラは自然分娩に限らず、無痛分娩を選択した場合にも、精神的、実務的な支援をしてくれます。
アメリカでは核家族化が進み、身近に分娩中に付き添って支えてくれる人が少なくなったために、このようなサービスが必要とされうまれたのかもしれません。
日本でも里帰り出産が難しい産婦さんなどの支えになるために、このようなサービスが普及するといいですね。
特に初産婦さんにとっては、陣痛の痛みは未知の世界で不安も大きいことでしょう。
たとえ無痛分娩を希望していたとしても、陣痛の程度や時間の長さなどについて、きちんと知っておくことは必要です。
きちんと知っておけば、分娩の際に起こりうるさまざまな状況に備えられるからです。
陣痛の程度を医学的に定義することは困難ですし、ひとことで言い表すことも困難です。
痛みの感じ方や、痛む時間の長さは人それぞれで、またさまざまな因子に影響されます。
しかし、妊婦さんを不安がらせないために、医療関係者が陣痛を軽いものであると教えるのはよくありません。
陣痛の強さ、つらさ、時間の長さなどをきちんと教えられなければ、妊婦さんは不安を取り除くことができないばかりが、分娩中の自分の感情をうまくコントロールすることが難しくなるでしょう。
確かに、生まれてきた赤ちゃんの顔を見たら、それまでの痛みが嘘のように吹き飛んだ、という感情も本物であると思います。
出産を無事に終えた産婦さんからは「すばらしい痛み」であったとよく言われますが、同時に激しい痛みは出産に欠かせない、と示しているわけです。
これから出産を迎える妊婦さんは、陣痛室、分娩室で起こることをきちんと知った上で、利用可能な無痛分娩の方法の説明を受ける必要があります。
いざ陣痛が始まった時に、どのような鎮痛方法を選択するのか、適正な判断ができるために、陣痛に関する正しい知識を持っておくべきでしょう。
初めての妊娠、初めての出産、今までに経験したことのない出来事なだけに、不安も多いことでしょう。
妊娠、出産のパターンは本当に人それぞれです。
それゆえ体験談を聞いても意見があれこれあって「結局のところ、どうなんだろう?」と、かえって不安材料になってしまうこともあるでしょう。
特に「私に出産の痛みが耐えられるかしら」と不安に思う方は多いと思います。
そんな時「無痛分娩」なんていう言葉を聞くと、すごく魅力的に感じてしまったり…
多少の不安はあるとしても、疑問を抱えたままでは積極的に出産に向かえませんよね。
まずは気になることがあれば、担当のお医者さんに何でも相談することだと思います。
「質問しづらくて…」という方もいるでしょうが、ここでお医者さんと信頼関係を作っておけば、いい出産への道筋はできるわけです。
納得のいく出産をするためには、お医者さんとの相性も大切な要素の一つです。
お医者さんと合わなくて産院を変えた、という話もよく聞きます。
また産院によって、行なっている分娩方法もそれぞれで、水中出産、無痛分娩など少し特殊な方法は、どの産院でも行っているわけではないので、よく調べておく必要があります。
希望すればどんな方法でも産ませてくれる、というのは間違いです。
確かに自分の納得できるプランを立てて、素敵な出産をするのが理想です。
しかし医療的な内容も関わってきますので、信頼できるお医者さんとよく相談した上で、自分らしい出産ができるよう計画を立ててください。
陣痛は、とても特殊な痛みです。
それは、ケガや病気にともなう痛みではなく、出産という本来は健康的で正常な営みにともなう痛みだからです。
痛みの感じ方は、年齢やそれまでの人生経験、文化や性別の違い、過去の痛みの経験など様々な因子の影響を受けます。
そのため、陣痛は子宮の収縮による生理的な痛覚だけで構成されているわけではないと考えられています。
陣痛は突然始まるわけではなく、大抵の場合は穏やかな痛みから始まり、徐々に痛みの強さが増していきます。
陣痛は時間とともに変化し、いつかは必ず終わりがきます。
分娩第一期の陣痛は子宮の収縮によるもので、腹部だけでなく腰や骨盤の辺り、太腿の上部にも痛みを感じることがあります。
子宮の収縮による痛みは、引きつるような鈍い感覚で始まることが多く、収縮の強さが増すにつれて、痛みも増してきます。
しかし収縮と収縮の合間は痛みがないので、次の収縮までの間に体を休ませることができます。
経産婦の場合は赤ちゃんが産道を通るのが速いため、分娩の後半に急に激しい痛みを感じることがあるようです。
分娩が進行し、娩出の段階になると、膣壁が引き伸ばされ、赤ちゃんが会陰に下りてきます。
産婦さんは自然にいきみたい感覚を受けます。
この段階の痛みは鋭く刺すような痛み(熱い痛みと感じる人もいます)です。
しかし効果的な無痛分娩が施されていると、このような痛みも感じずにすみます。
会陰切開が行なわれた場合には、会陰縫合による痛みを感じるかもしれませんが、無痛分娩はこの痛みに対しても有効です。
日本では、陣痛の痛みに耐えて赤ちゃんを産むことがまだ当たり前のように捉えられています。
しかし、必ずしも我慢することが美徳であるのか、と疑問を感じている人がいるのも事実です。
最近では、麻酔による無痛分娩を経験したお母さんからの体験談を聞く機会も増えてきたように思います。
日本ではまだアメリカほど麻酔による無痛分娩が普及していませんが、その主流は「硬膜外麻酔」を使う方法です。
これは局所麻酔の一種で、下半身の知覚神経をブロックし、鎮痛効果を発揮します。
硬膜外麻酔による無痛分娩では、最初に腰椎のなかにある硬膜外腔というスペースに細いカテーテルを留置して、分娩が終了するまでそのカテーテルから局所麻酔を投与します。
そのほかに「脊椎麻酔」を使う方法があります。
これも局所麻酔の一種です。
脊椎麻酔では、硬膜外腔よりも脊髄に近いスペース(くも膜下腔)に非常に細い針で、直接、局所麻酔薬を投与します。
硬膜外麻酔よりも確実な鎮痛効果がすぐに得られます。
脊椎麻酔は主に帝王切開や鉗子分娩などの場合に用いられます。
また「硬膜外麻酔」と「脊椎麻酔」の長所を組み合わせ、併用する方法や、産婦さんが自分で鎮痛のコントロール(薬の投与)を行なう「PCEA(自己調節硬膜外鎮痛法)」といった方法もあります。
無痛分娩の目的での「全身麻酔」は、鎮痛薬や麻薬性鎮痛薬の注射により痛みだけを紛らす方法であって、手術ができるほどの全身麻酔とは異なります。
硬膜外麻酔法とは、腰椎の硬膜外腔というスペースに細いカテーテルを留置して、そこから局所麻酔薬や麻薬性鎮痛薬などを投与する方法です。
現在では、硬膜外麻酔による無痛分娩は、無痛分娩のもっとも有効な方法として行なわれています。
硬膜外麻酔は、下半身の感覚を麻痺させることによって、陣痛を軽減もしくは完全に取り除いてくれます。
最初に薬を投与してからおよそ10分〜20分で効果があらわれ、薬剤を追加投与することによって赤ちゃんが生まれるまで十分な鎮痛が維持できます。
硬膜外麻酔は、子宮や子宮頸部から痛みの信号が脳に伝わるのを途中で麻痺させて、産婦さんが痛みを感じないようにするのです。
硬膜外麻酔によってどの程度感覚が麻痺するのかは、使用された薬の濃度と量により異なります。
硬膜外麻酔が効き始めると、お腹からつま先までの感覚がなくなったり鈍くなったりします。
子宮が収縮するたびに締め付けるような感覚はするものの、痛みは感じなくなります。
ほとんどの女性が陣痛からは開放されますが、分娩をしている実感は味わえます。
分娩の最終段階では、赤ちゃんを娩出するために、産婦さんがしっかりといきむ必要があります。
産婦さんの感覚が麻痺していると、いきむタイミングがつかみにくいため、この時点で薬の量を減らす対応をとる場合もあります。
一方で、硬膜外麻酔によって陣痛が軽減したおかげで、痛みと戦いながらいきむよりも、より自然にいきむことができた、という産婦さんもいるようです。
無痛分娩の主流となっている「硬膜外麻酔」を使った方法の手順を説明します。
1.産婦さんは、横向きに寝るか座った姿勢で、背中を丸めます。
2.消毒液で背中を拭き、ごく細い針で痛み止めの注射をします。
3.硬膜外麻酔のための針を刺して、先端を硬膜外腔まで(皮膚から4cm前後)進めます。
そしてこの針の内側を通して、カテーテルと呼ばれる細いプラスチックの管を硬膜外腔に留置し、硬膜外針は抜いてしまいます。
4.カテーテルからごく少量の薬を試験投与して、カテーテルが正しい位置にあることを確認します。
その際にめまいや耳鳴りがした場合は、カテーテルの先が偶然血管に入った可能性があります。
5.カテーテルがずれたり抜けたりしないように、テープでしっかり固定した後は、動くこともできます。
6.留置したカテーテルから局所麻酔薬、あるいは麻薬性鎮痛薬を陣痛がおさまるまで少しずつ投与します。
7.効果が切れかかれば薬を追加できるようにしておきます。
この場合、薬が効くまでに、通常15分〜30分程度かかります。
無痛分娩を行なっている間は、産婦の心拍数と血圧を定期的に測定します。
また赤ちゃんの心拍数も監視しています。
同時に子宮の収縮の頻度や強さを陣痛計を使って観察します。
一般には赤ちゃんが生まれて会陰の処置が終わってから硬膜外麻酔を中止します。
その後、2〜3時間で下半身の感覚がもとに戻ります。
その時点で少し痛みがあり、つらく感じることがあるかもしれません。
まだ鎮痛処置が必要であれば、お医者さんや看護師さんに相談して鎮痛薬を処方してもらいましょう。
硬膜外麻酔による無痛分娩の安全性は確立されていますが、副作用がまったくないわけではありません。
以下に、起こりうる副作用の説明をします。
●かゆみ…特に麻薬性鎮痛薬を脊髄くも膜下腔に用いた無痛分娩の場合に頻度の高い副作用です。
かゆくなる部位は薬の種類によって多少異なりますが、かゆみは数十分から1時間位で消失することが多く、治療のための薬を必要としない程度です。
もちろん必要があれば、かゆみ止めの薬もあります。
●低血圧…硬膜外麻酔開始後に血圧低下が起きることがあります。
その場合、横向きに寝るといった対応をとったり(子宮が血管を圧迫するのを避けるため)、昇圧剤をしようすることもあります。
●発熱…硬膜外麻酔法が長時間にわたると、産婦さんに38℃以上の高熱が出ることがあります。
しかし熱そのものによって赤ちゃんに異常が起きることはまれです。
●尿閉…尿が膀胱にたまり、尿意はあるのに出ないことがあります。
分娩が終了すれば、徐々に治まります。
●吐き気…鎮痛法を開始して早い時期は血圧が変動しやすく、この時期に血圧が低下した場合は吐き気が起こりやすいと言えます。
しかし、麻酔を使わない出産でもよく見られる症状です。
分娩が終了すれば、長くは続かないので、その後の育児に影響が及ぶ心配もないでしょう。
●アレルギー…麻酔薬が誤って血管内に注入されたり、量が多量になった時などに、耳鳴り、めまい、舌のしびれなどが起きます。
この場合、適切な処置がされれば命に別状はありません。
また、重度のアレルギー反応であるアナフィラキシー反応と呼ばれる異常反応がまれに見られます。
かゆみを伴った赤い斑点が皮膚に生じ、嘔吐、むくみなどを起こし、重症な場合は血圧低下や呼吸困難が生じる可能性もあり、早急な処置が必要となります。
麻酔を使った無痛分娩を行なうにあたって、やはり心配になるのは赤ちゃんへの影響でしょう。
妊娠中から、お腹の赤ちゃんへの影響を心配して服薬を一切控えていた産婦さんもいることでしょう。
赤ちゃんの体に異常がないかどうか評価するためには「アプガースコア」といって赤ちゃんの心拍数、呼吸状態、筋緊張、皮膚の色、反射をそれぞれ0,1,2点で採点する方法を使います。
また、赤ちゃんの覚醒状態、周囲の出来事に対する的確な反応、無意味な刺激を繰り返した時の反応や総合運動、反射運動などを調べたりして、赤ちゃんの状態を評価します。
この方法を用いて麻酔による無痛分娩で生まれた赤ちゃんを調べてみると、硬膜外鎮痛法が使われ始めた頃は、この評価点数が低いことが報告されていました。
現在は、評価点数が低いとされた薬は使わず、赤ちゃんに影響の少ない薬を使うようになりましたし、複数の薬を一緒につかうことにより一つの薬の使用量も減少したため、赤ちゃんへの影響はほとんどないと考えてよいかと思います。
また麻酔を使った分娩後の授乳の際に、体に残っている麻酔薬が母乳を介して赤ちゃんへ移行して赤ちゃんが眠ってしまったり、呼吸が抑制されないか心配する人もいるかもしれません。
麻酔分娩を行なった産婦さんの母乳を用いて麻酔薬の濃度を測定してみても、数時間〜6時間後ではきわめて少量しか検出されません。
それどころか、痛みによるストレスが軽減されるため、母乳の出がよくなるという報告もあるそうです。